本の紹介「犬として育てられた少年 子どもの脳とトラウマ」 ②2010年03月01日 20時49分15秒

この本の中で、虐待されトラウマを抱えた子ども達の回復にとって、愛情あふれる豊かな人間関係が決定的に重要であるということ強調していると、前回のブログで書きました。

同時に、「もっともトラウマの犠牲になりやすい子どもこそ、支えてくれる健全な家族やコミュニティを持たないことが多」いこと、「健全なコミュニティというのはそれ自体が、対人トラウマにつながるような出来事を未然に防ぐものだが、地域間の移動が激しく、人と人とのつながりの崩壊が一般化している現代社会では、全ての人がそうした被害に遭いやすくなっている」ということも指摘しています。

では、どうしたらよいのか?当たり前と言えば当たり前のことですが、「今よりも健全な社会を築かなければならない」ということです。

著者は、「人間の社会生活の基本となる生物学上の単位」は「大家族」であるとしています。「数え切れないほどの世代にわたり、人間は40人から150人ほどの小さなグループを作って暮らし」、「共同生活を営んで」いました。長い歴史の間、人間は「生存のためには相互協力が不可欠な状況の中で進化」してきました。

著者は、人間が進化してきたこうした歴史を踏まえて、「人間は、自らを進化させてきた環境からどんどん遠くへ離れてきて」しまっており、「我々が今いる世界は、生物学的な条件を無視している」と指摘しています。「富める者がさらに富み、残りの者たちは気まぐれな国際競争の中に放り込まれるような社会」「スポーツでも成績でも他人に勝つことの重要性」が強調され、「常に競争に重きが置かれる」社会は、人がきちんと育つことのできる健全な社会ではありません。

「我々は今歴史の過渡期に」おり、「人間の生物学的な要求が尊重される世界を、他人との関係を無視したり壊したりするのではなく深めていくような世界を、どうやって作り上げていくのか?」が問われています。

人と人との深い関わり合いの中でこそ、子どもも親も成長することができます。

私たちが、学童保育の中で、子どもを真ん中にしながら親と指導員がともに協力し合って共同の子育てをするということ、子ども同士の関わり、親同士の関わりを大切にして、学童保育を作っていくということも、子どもたちが健やかに育っていく、今よりも健全な社会を築いていくための大切な取り組みの一つだと思います。そういうことをあらためて確認させてくれた本でした。

「私は学童保育指導員」を読んで2010年03月02日 23時23分02秒

今回も、最近読んだ本の紹介です。

昨年の東武沿線交流会の講師としても来ていただいた河野伸枝さんが書いた「私は学童保育指導員」です。

この本は、昨年7月に出版された時に買って本棚に入ったままになっていました。東武沿線交流会にも他の用事が重なって参加できなかったのですが、たまたま先日福岡県の研究集会で河野さんとご一緒する機会がありました。全国連協の副会長を務め、全国を飛び回り土日もないくらい忙しいのに、とてもゆったりとして人をほっとさせてくれるような雰囲気で、気取らないとても温厚な方でした。こうしたお人柄に触れ、これは是非とも読まねばと思い、本棚から引っ張り出して読み出しました。

第1章から第3章までは、学童保育の1日、年間行事、指導員の仕事などがまとめられており、学童保育で具体的に子ども達がどんな活動をしているのか、学童保育の中で私たちがどんなことを大切にしているのかがとてもよく分かります。

後半の第4章から第6章までは、子ども達の心に寄り添いながら、さまざまな困難を抱えた子どもや親と正面から向き合った感動的な保育実践、事例が綴られており、読んでいて思わず目頭が熱くなりました。

いろんな方に読んで欲しい本です。特に、新人指導員や学童保育に子どもを預けたばかりの方、そして行政の方にも是非とも読んでほしいなと思いました。

第4章から綴られている保育実践・事例は、前回、前々回のブログで紹介した本の内容-虐待などでトラウマを抱えた子ども達の回復ということ-とまさに共通する内容だと思いました。学童保育のすぐれた実践が、「人間の生物学的な要求が尊重される世界」「他人との関係を無視したり壊したりするのではなく深めていくような世界」、子ども達が健やかに成長していくことのできる「今よりも健全な社会」を築いていくための活動の重要な一部であることを改めて感じました。

「食堂かたつむり」を読んで~人と人との関わりの中でこそ~2010年03月06日 23時43分22秒

今回も本の紹介ですが、今回は小説です。

タイトルは「食堂かたつむり」、すでに読んだという方も多いかもしれません。

柴咲コウさんが主演で映画化されたということで、時間があれば読んでみたいなと思っていました。先月、福岡に行くときに、東京駅の本屋さんで山積みされていましたの、買おうかなと思った一瞬思ったのですが、行き帰りで読みたい本(渡辺治さんや二宮厚美さんが書いた「新自由主義か新福祉国家か」)があったので、また今度にしていました。たまたま、職場で隣の人が読んでいました。私が「いきものがかり」のCDを貸してあげたら、お返しにということで貸してくれました。心温まるお話で、最後の方は、おもわず涙してしまいました。

調理師をめざしていた主人公は、恋人を失ったショックで「声」を失ってしまいます。しかし、「食堂かたつむり」を開き、村の人の協力も得て、いろんな人に料理を作る中で、食べてくれた人に幸せを提供すると同時に自分の心も癒されていきます。

食材は、それをはぐくむ自然やそれを育てる人がいなければ、私たちの手元には届きません。そういう意味では、私たちがいろんな食材を使って食事を作りそれを食べるということは、そのことを通して自然やたくさんの人たちとつながっていくことなのだろうと思います。食材をはぐくんできた自然やそれを育てたり、私たちの手元に届けてくれたたくさんの人たちに感謝しながら、家族や仲の良い気が置けない友達と一緒に楽しく食事をするということは、実は私たちが生きていく上でとても大切なことなのではないかと思いました。

主人公が、「声」を取り戻すことができたのは、深い愛情を持って彼女をやさしく支えてくれる多くの人たちがいたからです。この間紹介してきた「犬として育てられた少年」も「私は学童保育指導員」もこの「食堂かたつむり」も、実は同じことを別の角度から言っているのではないかと思います。愛情あふれる人と人との関わりの中でこそ、人間は成長していくことができるということだと思います。

時間ができたら、柴咲コウさん主演の映画「食堂かたつむり」も見てみたいと思います。

今日、新事務所に引っ越しました。2010年03月07日 23時06分34秒

今日、雨の中、元気っ子クラブ事務所の引っ越しを行いました。

児童数の増大などで事務作業量が膨大になり職員数も増え、これまでの事務所が手狭になったこと、老朽化した木造アパートで2階に重たい荷物をたくさん置いてあるので耐震性にも不安があったことなどから、新しい事務所に移ることにしました。

新事務所は、草加駅から徒歩7分、氷川上田公園の手前にある鉄筋のビルの1階です。内装の改修を、両新田学童のお父さんとOBの方が、自分の仕事の合間を縫って一生懸命やって下さいました。入り口を入るとカウンターがあり、その向こう側が机を5つ並べた事務スペースです。事務スペースは床上げしてあり、LAN配線等は床下を通っています。事務スペースの奥は、間仕切りがしてあり、ちょっとした会議ができるくらいのスペースがあります。書類や運動会などで使う道具などをしまうところも、手作りでうまく作ってあります。

今日の引っ越しでは、瀬崎学童のお父さんとOBががんばって下さいました。朝8時半に学童に集合し、その後トラックとワゴン車に乗って事務所に来てくれて、あっという間に荷物を運んでくれました。お弁当を食べていただこうと思って注文していたのですが、10時半頃には、全て運び終わってしまいました。保育の会専従の赤羽さんのお母さんが作ってくれたおいしいお赤飯を一緒にいただき、お弁当はお持ち帰りとなりました。

その後も、事務所の人たちで荷の片付けを行い、パソコン、プリンター、インターネットもつなぎ、とりあえずは通常の業務ができるまでになりました。

今回の事務所移転でも、学童に関わるお父さんお母さん達のパワーとやさしさをあらためて感じることのができました。今後とも、多くの人たちの支えでこの事務所を維持していくことができたらと思います。

昼に両新田の学童まつりに行ったときに、市長にお会いしたので、「是非新しい事務所にお越しください。」とお誘いしました。皆様方も、お近くにお越しの際は、是非ともお立ち寄り下さい。(住所は、後日ホームページ等に載せます。電話、FAX、メールアドレス等はこれまでと変更ありません。)

本の紹介-「発達が気になる子のサポート入門-発達障害はオリジナル発達」2010年03月26日 20時59分23秒

今回も本の紹介です。

「発達が気になる子のサポート入門-発達障害はオリジナル発達」(学研新書 阿部利彦著)

先日、北千住駅の中にある本屋さんにぶらっと入って、偶然手にした本ですが、とても良い本でした。著者の阿部さんは、所沢市で教育相談をやっている方だそうです。

発達障害を持っている子どもに対してだけでなく、子どもの能力を引き出すために、親や教育者、指導員などが、具体的にどのように子ども達に関わっていけばいいのかということが非常にわかりやすく書いてあります。

こんな風に書くと、単なるハウツーもののように思われるかもしれませんが、決してそうではありません。本の内容が分かりやすく、なおかつ具体的に実践に役立つものであるのは、著者が実際に多くの子ども達に接しており、その体験に基づいて書いてあるということ、そして、そうした体験に裏打ちされた子どもとその発達に対する確かな目を持っているからだろうと思います。

実際に本を読んで頂ければと思いますが、その内容のごく一部を紹介します。



「私のがんばりに誰かが気づいてくれますように」これは、中学校に進学してから不登校になってしまったイズミさんが書いた切なる願いです。発達障害のある子の多くが、このような気持ちで毎日を過ごしているのです。彼らの「努力」や「成長」は、他の子と比べると小さなものかもしれません。それでも、その変化を見逃さず、「君のチャレンジを見守っているよ」「あなたのがんばりに私たちは気づいているよ」と認めること、そのようなまなざしを向けている大人がいることを彼らに伝えること、それが「ほめる」目的です。さらには、「あなたがあなたらしく、一歩一歩進んでいてくれてありがとう」と大人が感謝することが、子ども達の厳しい生き方を支えることにつながっていくのだと私は考えています。



ところが、実際はまわりの大人はたくさんほめているのだけれど、その思いが当人には全く届いていない場合があると指摘して、次のように書いています。



そんなときには、ほめ方を見つめ直してみましょう。大人が望む行動をしたときだけを認めてほめてしまうと、結果的にその子は大人が思い通りにコントロールするためにほめられたことになり、ほめられてうれしいという気持ちになりにくいのです。なぜなら、子どもは「ほめてほしいときにほめられる」ことで、心にしみる経験となるからです。大人に都合の良い行いをしたときにだけほめるのではなく、その子が自分でがんばったなと思えた瞬間、少しでも成果が上がった瞬間をとらえて、すかさずほめてあげたいものです。



なかなかに奥深い文章です。「その子が自分でがんばったと思えた瞬間」を、的確にとらえ「すかさずほめる」ということは、実はものすごく難しいことです。どれだけその子どもを丸ごととらえられているのか、どれだけ深く関われているのかということが問われてきます。

自分自身の子どもとの関わりを改めて深く考えさせてくれた本でした。