明日の日本の姿を描けない「事業仕分け」2009年11月26日 00時35分46秒

行政刷新会議による事業仕分け作業が行われ、新聞やテレビで連日のように報道されています。11月11日から17日まで行われた第一弾が終了し、現在第2弾が27日までの予定で行われています。

「行政の無駄をはぶくことができる」「民間が入って公開で国の予算を論議したことは画期的」などと評価する声も多く、マスコミでも、おおむね好意的に報道しているように思われます。

しかし、私は全くそうは思いません。1時間という短い時間で、現場の声も聴かずに、短期的な効率性という観点から事業を評価していくということは全くばかげたことだと思います。無駄遣いがあるのであれば、当然それを省くことは必要ですが、こういうばかげたやり方でなくてもできるはずです。

さらに問題だと思うのは、この「事業仕分け」が何を目的としているのかということです。行政刷新会議のHPでは、この会議の役割を次のように述べています。(太字は引用者)


行政刷新会議では、「国民的な観点から、国の予算、制度、その他国の行政全般の在り方を刷新するとともに、国、地方公共団体及び民間の役割の在り方の見直しを行う」(平成21年9月18日閣議決定)とされています。

当面の課題として、提出された要求について、その必要性について徹底した精査を行うなど、歳出の徹底した見直しに取り組んでまいります。


最初の太字の部分、「国、地方公共団体及び民間の役割の在り方の見直し」というのは、要するに、小泉元首相などが「聖域なき構造改革」というスローガンでさかんに主張していた、新自由主義に基づく「小さな政府」「官から民へ」という考え方を表現しているのだと思われます。国の事業の「仕分け」を行い、民間でできることは民間に任せ、「小さな政府」を実現するということは、小泉内閣時代に策定された「行政改革推進法」に端を発しています。今回の、民間人「仕分け人」の中には「小泉改革」を推進した人物も含まれている、という指摘もあります。

後段の太字の部分、歳出の徹底した見直しが、今回の「事業仕分け」の直接的な目的を表しています。今回の「事業仕分け」では、50年後100年後の日本のあり方を、大所高所から論じているわけではないのです。そういう先の話は置いておいて、当面歳出が削れる所はどこかということを探しているだけなのです。無駄を省くことは当然としても、その無駄を省いた後に、どのような新しい日本の姿を描いていくのか、それが全く見えてこないのです。

私は、1990年代のフィンランドの取り組みに学ぶべきではないかと思います。

1990年代当初、フィンランドは、金融危機や貿易不振などから失業率が20%にもなるという、深刻な経済危機に襲われていました。財政支出を抑えなければなりませんでしたが、フィンランドが行った決断は、教育への投資を増やすということでした。「教育こそが、組織や企業、そして国全体の競争力を高める道」であり、不況から抜け出すためにも「人という資源に投資するのが一番良い方法」であると考えたのです。この戦略は、成功し、IT産業の急成長などを中心として景気の回復を実現すると同時に、15歳児を対象としたOECDの学習到達度調査により「学力世界一」と評価されるまでになりました。

この教育改革を推進した教育大臣のヘイノネンさんは、次のように述べています。


「わたしたちは教育こそが、組織や企業、そして国全体の競争力を高める道だと考えました。さまざまな分野で、最高水準の教育を受けた人材を育成することは、人口がきわめて少ないフィンランドにとっては本当に大切なことなのです。ですから、文字通り一人ひとりの教育レベルが高くなければなりません。教育で大切なのは、『機会の平等』なのです。その基盤があって初めて、世界の頂点に立てる高い水準の人材を育成することができます。教育はいわば『投資』です。これは国の競争力に関わる問題です。」


日本という国は、経済的には「先進国」と言えるかもしれません。しかし、教育や子育てや福祉などの分野で見てみると、他のOECD諸国などと比べても、本当に遅れた「後進国」であると言わざるを得ないというのが現実です。乱暴に無駄の削減を競い合うことよりも、これからの日本を作っていく、きちんとした理念をこそ語るべきではないかと思います。

なお、草加市でも、昨年6月に「事業仕分け」が行われました。この草加市での「事業仕分け」について、昨年ブログで2回にわたって取り上げました。興味のある方は、是非ご覧下さい。

草加市事業仕分け1日目
草加市事業仕分け2日目