「下町ロケット」をよんで2011年08月28日 22時14分18秒

最近読んだ本の紹介です。

「下町ロケット」(池井戸潤著)、第145回直木賞(2011年度上半期)を受賞した作品です。図書館でこの本を借りて、その日のうちに一気に読んでしまいました。

ロケットを打ち上げるための技術の開発には、莫大なお金がかかります。そしてその一つひとつの部品には、きわめて高い精度が要求されます。この小説は、小さな佃製作所という小さな町工場が、ロケットのエンジンの心臓部ともいえる燃料バルブを作ることになるまでを描いたものです。

自分たちの都合で勝手に下請けの中小企業を切り捨てる元請け会社。お金を出せば、ちっちゃな町工場は何でも言うことを聞くと思っている大企業。しかし、佃社長には、お金には代えることのできない夢や誇りというものがありました。

大企業の中では、打算や自分の利益、保身のためだけに動いている人もたくさんいます。しかし、曇りのない目で、小さいながらも佃製作所は自分たち以上の高い技術と夢を持っているということを見抜き、企業の大小ではなく、こういう人たちとこそ一緒に仕事をしたい、真剣に努力してくれた人もいました。

その一方、佃製作所の中でも、「誇りやプライドにこだわるのではなく、楽してお金が稼げればいいじゃないか」「ロケットを飛ばすっていう社長の夢につきあっていられない」という従業員もおり、社長も苦悩します。夢や希望だけでなく、そうした人間のどろどろしたところ、醜さも丁寧に描かれています。

大企業の横暴、ライバル大手会社の陰湿な嫌がらせ、メインバンクの冷たい仕打ち、佃製作所内部のごたごた。会社そのものが倒産するかもしれないという崖っぷちの状況。そういう中でも、高い技術力、物作りに対する真剣さ、夢や希望に向かって努力する佃社長の姿勢に共感し、協力しようという人たち、支援しようという会社も増えていきます。

肩書きとか、働いている会社の大きさとかではなく、夢を持ってその実現のためにまじめに地道に努力をしている人はやっぱりかっこいい。あれこれぶつかり合いながらも一つの目標に向かってお互いが信頼し合い、協力し合うこととは美しい。人が働くことの意味、生きていく上で何が本当に大切なのかということを改めて考えさせられました。