「NHKスペシャル 密使 若泉敬 沖縄返還の代償」を見て2010年06月21日 22時26分10秒

一昨日、NHKスペシャル「密使 若泉敬 沖縄返還の代償」を見ました。若泉敬さんは、1972年の沖縄返還交渉の際に、佐藤栄作首相(当時)の密使としてアメリカとの交渉の中心となった人物です。普天間基地の移設先が大きな問題となっている時だけに、まさに時宜にかなった見応えのある好番組でした。

第二次世界大戦の敗戦後アメリカの占領下におかれていた日本は、1951年のサンフランシスコ講和条約で、一応の「独立」を果たしました。しかし、沖縄は引き続きアメリカの施政権下にありました。朝鮮戦争、ベトナム戦争において、沖縄の米軍基地は重要な爆撃拠点、後方支援基地としての役割を果たしました。また、冷戦下においては、東側諸国に対する抑止力を持った軍事基地として、アメリカにとって非常に重要な役割を果たしていました。こうした中で、アメリカ兵による悪質な事件なども相次ぎ、アメリカの施政権下から脱して、「本土」に復帰するということは、まさに沖縄県民みんなの願いとなっていました。

沖縄返還に際して大きな問題となったのが、核兵器の問題でした。唯一の被爆国である日本は、非核3原則(核兵器を持たず、作らす、持ち込ませず)を掲げていますが、アメリカにとって重要な戦略拠点である沖縄の基地に核兵器が存在しているということは自明のことでした。「核抜き・本土並み」を実現できるかどうかということが、沖縄返還交渉の大きな課題だと見なされていました。沖縄返還を実現するために考え出されたのが、「アメリカは沖縄から核兵器を撤去するが、『有事』の際は核兵器の再持ち込みを日本政府は認める」という「密約」を結ぶということでした。交渉の際、「密約は返還のための代償だ」として佐藤首相を説得し、密約の草案を作成したのが若林敬さんでした。

しかし、その後、アメリカの機密文書が公開される中で、アメリカの本音が明らかになってきました。その当時、核兵器は原子力潜水艦など、どこからでも発射できる兵器となっていました。アメリカにとっては「核の再持ち込み」は、それほど重要な問題ではなかったのです。日本側が、核問題に関して敏感であるということを逆手に取り、この問題を前面に出すことで、他の問題から譲歩を引き出すということがアメリカの本当の狙いでした。

アメリカが、「譲歩を引き出したかった他の問題」とは何か。それは、「沖縄の軍事基地を、アメリカが自由に使える権利を保障する」ということでした。そもそもアメリカにとっては、「核密約」などは必要のないことでした。しかし、そのことを「交渉カード」として使うことで、沖縄の米軍基地を自由に使えるという権利を獲得したのです。

「本土復帰という沖縄県民の願いを実現する」ために「密約」まで結んだ若泉さんでしたが、後年この交渉におけるアメリカ側の真意を知り、沖縄県民に対して本当に申し訳ないことをしたという後悔の念でいっぱいになったといいます。何としても、この沖縄交渉の真実を伝えたいという想いで、国家機密とも言うべき秘密交渉を暴露する著作(「他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス」)を著しますが、政府や国会からは、「黙殺」されてしまいます。自身が行った秘密交渉によりアメリカが沖縄の基地を自由に使うという事態を招いてしまったという、自分の行為の「結果責任」をとるとして、この著作の発表2年後、若泉さんは自らの命を絶ってしまいます。

沖縄問題の本質は「基地問題」であるということを、改めて感じました。こうした歴史的経過を見ても、沖縄の米軍基地は、日本にとって必要なものではなく、アメリカにとって必要なものなのだということがよく分かりました。沖縄の米軍基地は、沖縄本島の18%を占めています。日本におかれている米軍基地の74%は沖縄にあります。「抑止力として沖縄の米軍基地は必要だ」などと言って、こうした異常な事態をいつまでも放置しているのは、沖縄県民にたいする愚弄以外の何物でもありません。日本の主権に関わる問題として、沖縄の基地問題を真剣に考えていく必要があると思います。

サッカーのワールドカップが始まり、新聞もテレビも連日異常に大きく報道しています。NHKのニュースまでが、かなりの時間を割いてサッカーのことばかり報じる有様で、辟易していました。しかし、ドキュメンタリーに関しては、NHKもちゃんと本当に良い物を作っていると感心します。応援していますので、ジャーナリストとしての精神を忘れずこれからもがんばっていってほしいと思います。