日本は子どもを大切にしている国か?2009年03月21日 21時45分49秒

3月12日のブログで、子どもの権利条約に関する週刊新潮の記事を紹介しました。あまりにひどい内容ですので、いくつかの点について、反論を書いてみたいと思います。

今回の反論は、前回のブログでも書いた、子どもの権利条約は、「子どもが蔑(ないがし)ろにされている国のためのもの」であるということに関してです。「子どもが蔑ろにされている国」というのは、いわゆる「発展途上国」などのことであり、日本のような「先進国」には、関係ないことであるという意味だろうと思います。しかし、これは、事実と全く違います。

例えば、子どもの権利条約第24条第一項は、医療に関して、次のように述べています。(日本ユニセフ協会訳、以下も同じ。)

締約国は、到達可能な最高水準の健康を享受すること並びに病気の治療及び健康の回復のための便宜を与えられることについての児童の権利を認める。締約国は、いかなる児童もこのような保健サービスを利用する権利が奪われないことを確保するために努力する。

簡単に言えば、「子どもは、最高水準の医療を受ける権利を有し、そのようなサービスを利用する権利が奪われることがあってはならない」ということです。では、日本の現実はどうでしょうか。

昨年9月の厚生労働省調査では、日本全国で健康保険証を持たない中学生以下の子どもが3万2,903名にものぼっていることが明らかになりました。厚生労働省が、無保険の児童に関して調査したのは今回が初めてです。さすがにこれは問題だということで、健康保険法の改正が行われ、今年の4月以降は、国民健康保険の保険料の滞納による資格証明書発行世帯であっても、中学生以下の子どもがいる世帯には一律に6カ月の短期保険証が交付されることになります。

しかし、これで問題が解決したわけではありません。6ヶ月という期限がありますし、国民健康保険料を払うことが出来ない世帯が、医療費の自己負担分3割をきちんと払うことができるのかという問題もあります。全ての子どもが、安心して「最高水準の医療」受けられるようにという子どもの権利条約の理想からは、ほど遠いのが日本の現実です。

また、子どもの権利条約第28条の中では、教育に関して次のように述べています。

  1. 初等教育を義務的なものとし、すべての者に対して無償のものとする。
  2. 種々の形態の中等教育(一般教育及び職業教育を含む。)の発展を奨励し、すべての児童に対し、これらの中等教育が利用可能であり、かつ、これらを利用する機会が与えられるものとし、例えば、無償教育の導入、必要な場合における財政的援助の提供のような適当な措置をとる。
  3. すべての適当な方法により、能力に応じ、すべての者に対して高等教育を利用する機会が与えられるものとする

ここに書かれている精神は、「初等教育の無償は当然のこととして、中等教育においても、無償化を目指すべきである。全ての子どもが、その能力に応じて、高等教育まで受けられるような機会を保障しなければならない。経済的な理由で、教育を受けられないというような事態があってはならない。」ということです。

この条文では、中等教育や高等教育の無償化に関しては、義務的には述べていません。しかし、それは、経済的に大変遅れた国がまだまだあり、条約として一律に決めることが出来なかったということだと思われます。

日本においては、前期中等教育(中学校)の授業料等については無償となっていますが、後期中等教育(高等学校)の授業料等は有償となっています。しかし、実は、世界的に見ると、先進国で高校段階の授業料を徴収している国は、ほとんどありません。

OECD(経済協力開発機構)加盟の30ヵ国のうち、高校の授業料を徴収しているのは、日本、韓国、イタリア、ポルトガルの4カ国だけです。アイスランドは入学金は徴収、スイスは一部の州では有料となっていますが、それ以外の24カ国においては、高校は完全に無償となっています。高校の授業料を払うために、アルバイトに追われているとか、中退せざるを得ないというような事態が大きな問題となる国というのは、先進国では、極めてまれな国なのです。

OECDが、昨年9月に、"Education at a Glance 2008: OECD Indicators"という文書を発表しました。とても興味深いデータがたくさん載っているのですが、ここでは、教育にかける費用ということに関して紹介します。

2005年における、日本の教育支出の対GDP比は、4.9%となっています。この数字は、2000年の水準(5.1%)と比べて低下していますし、OECD平均の5.8%を大きく下回っています。順位でいうと、OECD加盟国のうちデータのある26カ国の中では20番目となっています。

まだ、下があると安心していてはいけません。問題なのは、この4.9%の内訳です。この4.9%のうち、公的な支出が3.4%、私的な支出(つまり家計負担)が1.5%となっています。公的支出の3.4%という数字は、上記26カ国中26位、つまり、日本は、OECD加盟国の中で教育にかける公的な支出の割合が最も少ない国だということです。その一方で、家計負担の1.5%という数字は、26カ国中3位となっています。

このOECD調査から分かることは、日本という国は、そもそも教育にかける割合が少ないが、その中でも特に公的な支出が極めて少ないという特徴を持った国であるということです。にもかかわらず、世界的に見て極めて高い学力を維持している国でもあります。

この高い学力を支えている一つの要因は、教育に対する家庭の支援(負担)が大きいということにありました。今、経済的な不況や格差の拡大などにより、教育を支えていた家庭(家計)が破綻しつつあります。公的な支援が少なく、家計からも多くを支出することが出来ないとしたら、いったい日本の教育はどうなってしまうのか。暗澹たる気持ちになってしまいます。

まだまだ、いろんなデータを出すことは出来ますが、これくらいにしておきましょう。こうしたデータを見ると、日本という国が、いかにこどもを大切にしていない国かということが分かってきます。もしかしたら、日本こそが「こどもを蔑(ないがし)ろにしている国」なのではないかと思えてきます。

それぞれの地域において、子どもの権利条約の精神に則って、子どもの最善の利益をまず第一に考えた「子どもの権利に関する条例」を策定していくことが、極めて重要だと思います。燎原の火のごとく、「子どもの権利に関する条例」を日本全国に広めていきましょう。