「カプセル家族」の危機2007年07月01日 22時55分24秒

尾木直樹さんの新しい本「『カプセル家族』の危機-続発する家庭内殺人」(学研新書)を読みました。

このところ、ニュースなどで肉親を殺害するという凄惨な事件が多いとは思っていましたが、あらためてまとめたものを読んでみると、本当に異常な事態だと思いました。

この本では、6件の「家庭内殺人」を取り上げています。決して、興味本位ではなく、「事件に至る経緯や背景の分析をていねいに行うとともに、変わりつつある現代の親子、兄弟、家族関係にスポットを当て」、「どうすれば家族の危機-とりわけ『中流家庭の少年』たちを犯罪への危機から回避させることが出来るのか、かつての平和な家庭に戻すことが出来るのか」を考えていくためです。

どの事件も、記憶に鮮明に残っています。

●2006年6月20日、医師を両親に持つ私立高校一年生(小学校時代には「天才」と呼ばれるほど成績が良く、全国的にも著名な進学校に通っていた)が、自宅に放火し、母親と小2の弟、保育園児の妹を殺害した事件。

●2006年12月30日、歯科医師を両親に持つ三浪中の次男(21歳)が、短大卒業間近の妹を殺害した事件。殺害後遺体を十数カ所にわたって切断し、自室のクローゼットと物入れに隠していたという。その後次男は、予備校の受験直前合宿に参加し、その合宿先で逮捕された。

●2005年6月20日、板橋で社員寮管理人の夫妻が、高校1年生の長男に殺害された事件。包丁で両親を殺害した後、調理用タイマーを使い、ガスによって部屋を爆破。長男は、2日後、草津の温泉旅館にいるところを、捜査員によって身柄を拘束された。

●2005年10月、静岡県の県立高校1年生の女生徒が、母親に劇物のタリウムを計画的に摂取させ、殺人未遂容疑で逮捕された事件。この高校は、県内でも有数の進学校であり、その中でもこの女生徒はトップクラスの成績であったという。女子生徒は、タリウムによる症状の変化を知るために、観察記録を付けており、それをブログでも発表していた。

●2003年4月24日、横浜での事件。母親が、朝、高校3年生の息子を起こそうとしたが起きなかったため、父親の手を借りた。父親の注意に対して立腹した息子が、父親の首を絞めて殺害。息子が通っていた高校は、横浜市内でも有数の進学校であり、「欠席はほとんど無く、友人と先生との関係も良かった」ということであるが。

●2005年6月23日、福岡市のマンションで中学3年生の弟が、17歳の兄(専修学校3年生)を包丁でめった刺しにして殺害した事件。日頃から、兄は弟を、自分の思いとおりにこき使い威張り散らしていたという。この日も、兄の方が先に弟を殴り、折りたたみ式ののこぎりを持ち出し、弟の首を切りつけた。そこで弟は、台所のテーブルの上にあった包丁を持つと兄に斬りかかり、めった刺しにした。

こうした事件の原因を一つに単純化することは出来ませんが、尾木さんは、家族やそれを取り巻く人間関係の質的な変化に着目しています。

「家庭、地域コミュニティ、友人関係(恋人関係)に至るまで、これまで健在し開放的であった相互性を喪失し、極めて閉鎖性の強い”カプセル”状況に入り込んでいるのではないか」

「全ての対人関係・人間関係において、私たちがこれまで大切にしてきたゴツゴツとしたリアリティのある肌のふれあいや顔の見えるつき合いが減り、バーチャルなネットコミュニケーションが台頭し、それでよしと満足してはいないだろうか。・・・急速なグローバル化が、私たちの身近における人間関係の希薄さを促進させてはいまいか。」

家庭も、地域も、学校も、それぞれが、他との関わりを持たずに、極めて閉鎖性の強い「カプセル」のような状況になっているのではないか。こうした閉塞した状況の中で、殺人にまで至るような様々な人間関係のゆがみが生じてきているのではないか。それが、尾木さんの結論であるように思います。

では、どうしたらよいのか。尾木さんは、いくつかの問題提起をしています。しかし、最終的には、自分たちが住む地域の中で、私たち自身がいかにこの「カプセル」状況を打ち破っていくのか、それぞれの家庭、地域のつながりをどう作り、開放的なものにしていくことができるのか、それが問われているのではないかと思います。