PISA 2009から何を学ぶか。2010年12月18日 20時15分00秒

今月7日、OECDが行ったPISAテスト(国際的な学習到達度調査)の結果が発表されました。日本は前回、前々回と順位を下げ、日本の生徒の「学力」が低下していると大きな問題となりました。今回は、「読解力」が前回の15位から8位、「数学的応用力」が前回の10位から9位、「科学的応用力」が前回の6位から5位となりました。マスコミなどでは、順位が上がったことから、「学力低下に歯止め」がかかった、「ゆとり教育」を転換し「学力向上」のための政策を進めてきた成果が上がっている、などという報道が目立ちました。

しかし、調査を行ったOECDは、日本の成績について次のように評価をしています。

Even though there is a general perception that Japan’s performance has been declining, the PISA results show that Japan has maintained high performance in reading, about 20 score points above the average, since 2000. Student performance in mathematics and science has also remained broadly unchanged since 2003 and 2006, respectively, when PISA began to measure these trends.

「一般に、日本の成績は低下してきていると認識されているが、PISAテストの結果を見ると、リーディングに関しては平均よりも20点以上高い得点をとり、2000年のテストからずっと好成績を維持してきている。数学と科学に関しても、PISAがこうした動向を調査し始めた、2003年、2006年から、概して成績の変化は見られない。」

2000年の第一PISA調査に参加した国は32カ国でしたが、毎回、参加国・地域は増え続け、二回目の2003年は41カ国、2006年は56カ国、今回は65カ国も参加しています。参加国が多くなれば、相対的に順位が下がるのもある意味では当然です。また、それぞれの地域の社会的、経済的、文化的な状況も全く異なっています。こうした中で、毎回の順位に一喜一憂し、きちんとした検証もなしに、国の教育政策そのものが大きく揺れ動いてしまっているというのは、全く困ったものだと思います。

OECDでは、PISAテストの結果についての詳細な分析を発表しています。日本の教育制度について分析した"Viewing The Japanese School System Through The Prism Of PISA"から、その一部を紹介します。(原文は英語で、26ページあります。)

「読解力分野で好成績を収めている生徒の比率は、2000年調査と比較して、10%~13%以上増えている。ジェンダーギャップがあり、女性の伸び率の方が大きく、男女の差も広がっている。」

「日本は、一人あたりのGDPはOECD34カ国中17位、一人あたりの教育支出(公的支出と私的な支出の合計)は、34カ国中14位である。教育に対するお金のかけ方から考えると、日本の成績は期待以上であると言える。」-GDPに占める公財政教育支出でみると、日本はわずか3.3%であり、データのある28カ国中で最下位だという調査結果も、最近発表されましたね。教育にかけるお金が少ない中でも、現場の教員ががんばっているということでしょうか。(小池注)

「読解力における高得点の生徒と低得点の生徒の差は、他のOECD諸国よりも大きい。2000年調査と比べても、その差は広がっている。その主な理由は、学校間格差が大きいためである。」

「日本の一人親家庭の比率は、他のOECD諸国よりも小さい。しかし、一人親家庭の生徒が芳しくない成績を収める危険性は、他のOECD諸国よりもはるかに高い。」

「社会的経済的な困難を抱えている生徒が特定の学校に集まっている。約30%の生徒が、社会的経済的な困難を抱えている生徒が集まる学校に通っている。そこに通っている生徒の57%が、社会的経済的な困難を抱えている。約31%の生徒は、社会的経済的に恵まれた学校に通っている。その学校の中で、社会的経済的な困難を抱えている生徒は8%に過ぎない。」

「読書だけでは十分ではない。本をたくさん読むけれども、効果的に学ぶことを理解していない生徒は、本をあまり読まないけれども効果的に学ぶことを理解している生徒よりも、成績が悪い。読書を楽しむということは必要なことではあるが、それだけでは十分ではなく、効果的に学ぶために読書をどう活用していくかということをきちんと理解するということと並行して進めていく必要がある。」

「教員たちが生徒の高い成果を期待し、勉強しようという意欲に溢れた環境、生徒と教員との関係がよく、教員のモラルも高い学校は、どの国においても、良い成果をもたらしている。PISA調査の結果では、次のような観点における高い評価と読解力分野の成績は、高い相関関係を示している。①規律のある雰囲気、②生徒と教員との関係、③学校の雰囲気に影響を与えるような教員に関わる要因。日本では、こうした観点における違いが成績の善し悪しに与える影響が、他のOECD諸国に比べて大きい。」

「教員と生徒との肯定的な関係は、学びやすい環境を作るのに役立つ。生徒(特に困難を抱えている生徒)は、教員が彼らのことを真剣に考えていると感じているときには、より良く学び、生徒指導的な問題を起こすことも少ない。」

「調査によれば、日本は、OECD諸国の中で生徒と教員との関係が最も弱い国の一つである。『多くの先生は私が満足しているかについて関心がある』という意見に『とてもよくあてはまる』あるいは『あてはまる』と答えた生徒は28%(OECD平均は66%)。『助けが必要なときは、先生が助けてくれる』という意見に『とてもよくあてはまる』あるいは『あてはまる』と答えた生徒は64%(OECD平均は79%)。『たいていの先生は、こちらが言うべきことをちゃんと聞いている』という意見に『とてもよくあてはまる』あるいは『あてはまる』と答えた生徒は63%(OECD平均は67%)。日本では、他のPISAテスト参加国と比べても、『生徒と教員との関係』と『生徒の成績』との間にはっきりとした相関関係が見られる。」

「学校間の競争と成績とは関連性があるように見えるが、生徒の社会経済的な側面を考慮に入れると、その関連性は弱くなる。日本は、社会経済的な側面などを考慮に入れる前の段階でも、学校間の競争は成績と関連していない。」

「生徒と教員との関係が弱い」と指摘されているのに、なぜ日本の成績はよいのか、生徒一人ひとりをきちんと受け止め、生徒を主体とした学習を行うならば、さらに成績を伸ばすことができるのか、などさらに突っ込んで検討しなければならないことはあるだろうと思います。ともかく、単に順位を問題にするよりも、こうした貴重な分析結果を謙虚に学んでいくことの方が、はるかに重要なことではないでしょうか。

PISA2009の結果とその分析については、以下のページで詳しく見ることができます。"PISA 2009 Results"は英文です。「OECD東京センター」では、日本語で概要が書いてありますが、「日本に関する資料」は、ほとんどが英文です。

PISA 2009 Results

OECD東京センター

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