「子ども・子育て新システム」について、小宮山康生労働副大臣の話を聞いてきました。 ― 2010年12月05日 23時03分24秒
4日(土)、お茶の水女子大学で「子ども・子育て新システム緊急シンポジウム-小宮山厚生労働副大臣を迎えて」というシンポジウムが開催されました。小宮山洋子厚生労働副大臣は、「子ども・子育て新システム」策定の中心となっている方です。直接その当事者から話が聞けるということで参加してきました。。主催は、臨床育児・保育研究会と保育者・保護者交流誌『エデュカーレ』です。『エデュカーレ』の編集長である汐見稔幸さん(白梅学園大学学長)が、小宮山厚生労働副大臣と親しく、その関係で、今回の企画となったということでした。
「新システム」については、全国保育団体連絡会が反対声明を出し、反対のための集会を開催しています。幼稚園関係者の反対も根強いものがあります。こうした反対に対して、小宮山さんがどういう話をするのか、大変に興味がありました。
最初に、小宮山さんから「新システム」について45分間お話があり、その後40分ほど質疑応答がありました。保育園、幼稚園の問題を中心としながら、「新システム」について具体的に説明してくれましたが、「新システム」に対しての小宮山さんの基本的なスタンスは要約すると次のようなものだったと思います。(一つひとつの言葉を正確に記したものではありません。私がそう理解したということです。)
「ただ単に『少子化に対する対策』ということではなく、子どもたちのことをまず第一に考えて、子どもたちのために今何ができるのかを考えなければならない。『政権交代』した今こそ、そのチャンスである。今、『新しいシステム』を作らないともうできないかもしれない。民主党政権がもっとしっかりしなければならないという思いはある。きちんとした動きができるようにいろんなところに積極的に働きかけている。問題は、どこまで財源が確保できるかということ。都市部での面積などについて一定の譲歩を余儀なくされたが、全国一律の最低基準を守るということについても、『大バトル』をやった。とにかく、子どもたちのためにということで、全力でやっている。こういう現場の方達との話し合いも、機会があれば、これからもやっていきたい。」
小宮山さんの「熱意」は十分に伝わってきましたが、「保育関係者の不安を払拭」とまではいかなかったように思います。いろんな批判や疑問点があるかと思いますが、印象に残ったのは次のようなことです。
「財源の確保がないままに、制度だけを作ると、結局『制度』に現実をあわせることになってしまうのではないか。子どもや家庭関連にきちんとお金を使うという保障がないままに制度だけを作っていくことは危険ではないか。」
「どういう保育をしたいのか、どういう子どもをめざすのかという、目的やそもそも論が論議されていない。制度改革の必要性は認めるが、理念なき制度改革になりはしないか。」
「現場でこれだけいろんな論議あるのに、来年1月法案提出というのは、とにかく、拙速に過ぎる。」
「『基準』について『大バトル』をやったと言ったが、都市部での面積などいったん規制が外れると歯止めがなくなる。『保育ママ』も、資格要件が緩和された。これで、いいものができるのか。」
こうした意見は、全くその通りだと思いました。小宮山さんの「熱意」は分かるものの、この「制度改革」が実際のところどうなるのかということについては、多くの人が不安を感じざるを得ないのだろうと思います。
大事なのは、小宮山さんも言っていましたが、子どものことをまず第一に考えるということです。あれこれの言い訳をせずに、子どもたちや家庭の支援のために、本当にきちんとお金を使うような政治をしてもらいたいと思います。そうした政治が実現できるように、現場の声をきちんと伝えていくということが大切だと改めて思いました。私たち自身の主体的な運動がやはり大切なのではないかと思います。
質疑の中で、学童保育のことについて質問したら、次のように回答していただきました。
「学童保育の困難な状況についてはよく承知している。法制化の時にも関わっており、個人的にも思い入れは強い。なんとか質を上げていきたいと思っている。放課後子ども教室には解消できない。放課後子ども教室と一体化できるものではない。」
この発言を受け、司会をしていた汐見さんが、次のように述べていたのも印象的でした。
「学童に関連して言うと、諸外国と比較しても、日本の放課後の子どもたちに対する施策は、本当に貧困であり、恥ずかしいくらいである。韓国やアメリカなどでも、かなり力を入れた施策を行っている。学校教育だけで子どもが育つわけではない。放課後の子どもたちの生活は、きわめて重要であり、『新システム』の中でもきちんと位置づけてもらいたい。」
PISA 2009から何を学ぶか。 ― 2010年12月18日 20時15分00秒
今月7日、OECDが行ったPISAテスト(国際的な学習到達度調査)の結果が発表されました。日本は前回、前々回と順位を下げ、日本の生徒の「学力」が低下していると大きな問題となりました。今回は、「読解力」が前回の15位から8位、「数学的応用力」が前回の10位から9位、「科学的応用力」が前回の6位から5位となりました。マスコミなどでは、順位が上がったことから、「学力低下に歯止め」がかかった、「ゆとり教育」を転換し「学力向上」のための政策を進めてきた成果が上がっている、などという報道が目立ちました。
しかし、調査を行ったOECDは、日本の成績について次のように評価をしています。
Even though there is a general perception that Japan’s performance has been declining, the PISA results show that Japan has maintained high performance in reading, about 20 score points above the average, since 2000. Student performance in mathematics and science has also remained broadly unchanged since 2003 and 2006, respectively, when PISA began to measure these trends.
「一般に、日本の成績は低下してきていると認識されているが、PISAテストの結果を見ると、リーディングに関しては平均よりも20点以上高い得点をとり、2000年のテストからずっと好成績を維持してきている。数学と科学に関しても、PISAがこうした動向を調査し始めた、2003年、2006年から、概して成績の変化は見られない。」
2000年の第一PISA調査に参加した国は32カ国でしたが、毎回、参加国・地域は増え続け、二回目の2003年は41カ国、2006年は56カ国、今回は65カ国も参加しています。参加国が多くなれば、相対的に順位が下がるのもある意味では当然です。また、それぞれの地域の社会的、経済的、文化的な状況も全く異なっています。こうした中で、毎回の順位に一喜一憂し、きちんとした検証もなしに、国の教育政策そのものが大きく揺れ動いてしまっているというのは、全く困ったものだと思います。
OECDでは、PISAテストの結果についての詳細な分析を発表しています。日本の教育制度について分析した"Viewing The Japanese School System Through The Prism Of PISA"から、その一部を紹介します。(原文は英語で、26ページあります。)
「読解力分野で好成績を収めている生徒の比率は、2000年調査と比較して、10%~13%以上増えている。ジェンダーギャップがあり、女性の伸び率の方が大きく、男女の差も広がっている。」
「日本は、一人あたりのGDPはOECD34カ国中17位、一人あたりの教育支出(公的支出と私的な支出の合計)は、34カ国中14位である。教育に対するお金のかけ方から考えると、日本の成績は期待以上であると言える。」-GDPに占める公財政教育支出でみると、日本はわずか3.3%であり、データのある28カ国中で最下位だという調査結果も、最近発表されましたね。教育にかけるお金が少ない中でも、現場の教員ががんばっているということでしょうか。(小池注)
「読解力における高得点の生徒と低得点の生徒の差は、他のOECD諸国よりも大きい。2000年調査と比べても、その差は広がっている。その主な理由は、学校間格差が大きいためである。」
「日本の一人親家庭の比率は、他のOECD諸国よりも小さい。しかし、一人親家庭の生徒が芳しくない成績を収める危険性は、他のOECD諸国よりもはるかに高い。」
「社会的経済的な困難を抱えている生徒が特定の学校に集まっている。約30%の生徒が、社会的経済的な困難を抱えている生徒が集まる学校に通っている。そこに通っている生徒の57%が、社会的経済的な困難を抱えている。約31%の生徒は、社会的経済的に恵まれた学校に通っている。その学校の中で、社会的経済的な困難を抱えている生徒は8%に過ぎない。」
「読書だけでは十分ではない。本をたくさん読むけれども、効果的に学ぶことを理解していない生徒は、本をあまり読まないけれども効果的に学ぶことを理解している生徒よりも、成績が悪い。読書を楽しむということは必要なことではあるが、それだけでは十分ではなく、効果的に学ぶために読書をどう活用していくかということをきちんと理解するということと並行して進めていく必要がある。」
「教員たちが生徒の高い成果を期待し、勉強しようという意欲に溢れた環境、生徒と教員との関係がよく、教員のモラルも高い学校は、どの国においても、良い成果をもたらしている。PISA調査の結果では、次のような観点における高い評価と読解力分野の成績は、高い相関関係を示している。①規律のある雰囲気、②生徒と教員との関係、③学校の雰囲気に影響を与えるような教員に関わる要因。日本では、こうした観点における違いが成績の善し悪しに与える影響が、他のOECD諸国に比べて大きい。」
「教員と生徒との肯定的な関係は、学びやすい環境を作るのに役立つ。生徒(特に困難を抱えている生徒)は、教員が彼らのことを真剣に考えていると感じているときには、より良く学び、生徒指導的な問題を起こすことも少ない。」
「調査によれば、日本は、OECD諸国の中で生徒と教員との関係が最も弱い国の一つである。『多くの先生は私が満足しているかについて関心がある』という意見に『とてもよくあてはまる』あるいは『あてはまる』と答えた生徒は28%(OECD平均は66%)。『助けが必要なときは、先生が助けてくれる』という意見に『とてもよくあてはまる』あるいは『あてはまる』と答えた生徒は64%(OECD平均は79%)。『たいていの先生は、こちらが言うべきことをちゃんと聞いている』という意見に『とてもよくあてはまる』あるいは『あてはまる』と答えた生徒は63%(OECD平均は67%)。日本では、他のPISAテスト参加国と比べても、『生徒と教員との関係』と『生徒の成績』との間にはっきりとした相関関係が見られる。」
「学校間の競争と成績とは関連性があるように見えるが、生徒の社会経済的な側面を考慮に入れると、その関連性は弱くなる。日本は、社会経済的な側面などを考慮に入れる前の段階でも、学校間の競争は成績と関連していない。」
「生徒と教員との関係が弱い」と指摘されているのに、なぜ日本の成績はよいのか、生徒一人ひとりをきちんと受け止め、生徒を主体とした学習を行うならば、さらに成績を伸ばすことができるのか、などさらに突っ込んで検討しなければならないことはあるだろうと思います。ともかく、単に順位を問題にするよりも、こうした貴重な分析結果を謙虚に学んでいくことの方が、はるかに重要なことではないでしょうか。
PISA2009の結果とその分析については、以下のページで詳しく見ることができます。"PISA 2009 Results"は英文です。「OECD東京センター」では、日本語で概要が書いてありますが、「日本に関する資料」は、ほとんどが英文です。
「学校を成功に導くものはないか?」-PISA調査の分析から ― 2010年12月20日 23時14分37秒
前回のブログで、OECDが出している、PISA2009の日本の結果に関しての文書について、その一部を紹介しました。
OECDは、今回のPISAテスト全体についての詳細な結果も発表しています。その中の一章は、"What makes a school successful?"(学校を成功に導くものは何か?)と題されています。PISSテストの結果から、どうすればよりよい学校制度を作っていくことができるのかという、方向性を示しています。今回は、その一部を紹介します。
「成功している学校制度、つまり、平均より良い成績を収め、社会経済的な不平等度が平均以下である学校制度は、生徒の社会経済的な背景に関わらず全ての生徒に同様な学習の機会を提供している制度である。」
「15歳の段階で、生徒が能力別に多くのコースに分けられている国においては、全体として成績はあまり伸びない。最初に能力別に分けられる年齢が早ければ早いほど、全体としての成績の改善が見られずに、15歳の段階での社会経済的な背景による生徒の成績の違いもより大きくなる。」
「一般的に、組織や学年やクラスの中において生徒を高度に差別化することにより、生徒の異なった要求に応じようとしている学校制度は、全体として優れた結果を生み出すことに成功していない。」-もう少しわかりやすく言うと、習熟度別のクラス編成のように、「できる子だけ」あるいは「できない子だけ」のクラスを作るなど、能力別に生徒を分けて教育を行うような制度は、成功しないということです。(小池注)
「劣っている生徒や秩序を乱すような生徒を別の学校に転校させることがより一般的に行われている学校制度においては、成績も公平性もより低くなる傾向がある。」
「最も成功している学校制度は、カリキュラムを組み立て、評価政策を確立するという点において個々の学校により大きな裁量権を与えている。しかし、これらの学校制度では、必ずしも入学者選抜において競争することを学校に許しているわけではない。」
「生徒を獲得するために多くの学校が競争するような、より競争的な環境が作られている国においては、制度的によりよい結果を生み出さない。」
「クラスサイズが小さいということではなく、教員の給与が高いということの方が、生徒の良い成績との関連性がある。クラスサイズを小さくすることよりも、教員の給与を上げることを優先している学校制度の方が、よりよい成績を収める傾向がある。このことは、クラスサイズを小さくすることよりも、教員の質を上げることの方が、生徒の成績を改善するためのより効率的な道であるという調査結果と一致している。」
よりよい学校制度を作っていくための方向性は明らかです。キーワードは「平等」です。大切なのは、できない子どもを切り捨てていくのではなく、本当に一人ひとりの子どもを大切にすること。さまざまな困難を抱えている子どもに対して、一人ひとりにあった適切な援助を行い、全ての子どもがその持てる力を十分に発揮できるような環境を作っていくということだと思います。能力別に学校やクラスを編成することによっては、良い成果を生み出すことはできないということも、これまでのPISA調査の結果から繰り返し指摘されていたことです。
クラスサイズに関して少し補足します。日本の初等教育における1学級あたりの児童数は28.1人です。OECD加盟国のうちデータのある24カ国の平均は21.6人であり、日本より1学級あたりの児童数が多い国は、韓国とチリしかありません。("Education at a Glance 2010"より)
OECDの分析では、クラスサイズを小さくすることよりも教員の給与、質を上げる方が効率的と指摘していますが、日本の場合には、教員の待遇の改善とクラスサイズの改善の両方ともが必要ではないかと思います。

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