消費税を上げると誰が喜ぶのか?~「消費税のカラクリ」を読んで2010年08月23日 23時02分38秒

最近読んだ本の紹介です。

先日、本屋さんで見て、帯に書いてあった「TV・新聞が報じない不公平税制の実態 消費税を上げると誰が喜ぶのか?」という言葉に誘われて、「消費税のカラクリ」(斉藤貴男著 講談社現代新書)という本を買って、読みました。

この本によれば、一般的にマスコミなどが消費税の問題点としてあげていることは、「①逆進性、②益税、③消費ないし景気を冷え込ませてしまう可能性」の3点です。しかし、消費税の持っている本質的な問題、危険性は、さらに深刻であると言います。もし、消費税の増税が行われたら、「この国の社会は大変な混乱に陥る」「中小・零細の事業者、とりわけ自営業者がことごとく倒れていく」「正規雇用から非正規効用への切り替えが一層加速して、巷にはワーキング・プアや失業者が群れをなす光景が見られるだろう」「自殺に追い込まれる人々がこれまで以上に増加するのも必定だ」と言います。

私は知りませんでしたが、消費税は、「国税のあらゆる税目の中で、もっとも滞納が多い税金」だそうです。2008年度に新しく発生した国税の滞納額のうち、実に45.8%が消費税の滞納だと言います。これは、消費税に「致命的な欠陥がある」からであると斉藤さんは言います。

消費税の納税義務者は、実は私たち消費者ではありません。それぞれの事業者が納税義務者となっています。消費税が他の税金と違うのは、「納税義務者が、その納税分を外部から預かることとされている点」です。では、外部から預かることができなかった場合はどうなるのか?

中小・零細企業の場合には、実際には、「価格に消費税を転嫁できない」ことは、ままあります。取引先との力関係で消費税を価格に転嫁できず、業績が大赤字であったとしても、納税義務者である事業者は、納付の期限が来れば、自腹を切ったり、借金をしてでも税務署に消費税を払わなければなりません。日本商工会議所が2006年に実施したアンケート調査によれば、「ほとんど転嫁できなかった」という事業者が約3分の1、「一部しか転嫁できなかった」も約3分の1もいるということです。

現在の消費税率5%だから何とかやっていても、これが倍の10%になったらいったいどうなるのか?多くの中小・零細企業が倒産に追い込まれてしまうというのは、自明のことではないかと思います。消費税値上げを考えている人たちも、このことを十分自覚しているようです。政府税制調査会の委員などを歴任したある財政学者は、斉藤さんがあるテレビ番組でこういうことを指摘したら、次のように答えたということです。

「そんなことを言われてもね。だからって消費税率を引き上げなければ、いつまで経っても生産性が上がらないじゃないですか。」

消費税を転嫁できないような生産性の低い弱小の事業者は、つぶれて当然ということなのでしょう。

帯に書いてあるように、たしかに最近、新聞やTVでは、こういうことをほとんど取り上げないなあと思いながら読みました。20年以上前、消費税が導入されそうだというときには、マスコミもこの本の中で取り上げられていたような内容も含めて、いろんな問題をもっと突っ込んで論じていたような気がします。

最近のほとんどのマスコミの論調は、「消費税増税なしには、財政再建や福祉社会の実現はできない」といったものです。今後の日本社会にとって非常に重要な問題ですから、もっといろんな問題を深く突っ込んで論じていくことが大事だろうと思います。

そのためにも、是非とも多くの人に呼んで欲しい本です。