認可保育園の施設最低基準引き上げの提言が出されました2009年06月07日 22時31分20秒

一部新聞で報道されていましたが、厚生労働省の委託を受けた検討委員会が、認可保育園についての施設最低基準(1948年の制定後、60年間一切改訂されていない)を、引き上げるようにという報告書をまとめました。

この報告書の名前は「機能面に着目した保育所の環境・空間に係る研究事業総合報告書」というもので、全国社会福祉協議会児童福祉部が、研究助成を受けて行ったものです。本年5月19日に開かれた、厚生労働省の第23回社会保障審議会少子化対策特別部会でも報告されました。

この報告書の特徴のひとつは、「子ども一人ひとりの発達過程や心身の状態にあわせることが大切な食事と午睡の行為に着目し、この2つの行為については他者に行為が中断されないような環境、つまり『保育における食寝分離』が必要であると考えるにいたった」ということです。つまり、食事と午睡を共有のスペースで行うのではなく、それぞれ別のスペースを確保する必要があるとしています。

こうした考え方に基づいて検討を行い、以下のように提言しています。

  1. 2歳未満児の保育のために必要な部屋の面積 4.11㎡/人 
    (「ただし、この面積にはほふくや遊びのために必要な空間が含まれておらず、この面積に加算して考えることが必要である。」としています。)
  2. 2歳以上児の保育のために必要な部屋の面積 2.43㎡/人

ちなみに、現行の基準は、2歳未満児が乳児室(1.65㎡/人)またはほふく室(3.3㎡/人)、2歳以上児が保育室または遊戯室(1.98㎡/人)となっています。


「最低基準」という考え方については、次のように述べています。

この研究で示した最低基準としての面積基準は、その言葉どおり「順守しなければならない最も低い基準」として検討した結果である。実際の整備にあたっては、子どもの発達保障の視点から地方自治体等の努力等により、より充実した環境を提供することが望まれる。例えば、降雪などで冬場の屋外遊戯が難しい地域では、遊戯室など保育に必要な面積を遊戯室等の面積として上乗せして確保するなど、地域状況を勘案した対応に期待したい。さらに、今回の研究では明らかにできなかった「ほふく」や「あそび」のための空間確保も重要であり、保育所として望ましい面積は今後の研究によりさらに付加される必要があると考えている。

(中略)現在の面積基準をさらに切り下げること、切り下げられるような仕組みを導入することは、一人ひとりの子どもの発達に応じた保育をさらに困難とするものであり、検討を行う場合は、少なくとも、現行の最低基準以上のものとなる方向で行うことが重要である。

新自由主義的な考え方に基づいて、「規制緩和」という名の下にどんどん福祉の基準が切り下げられているという状況の中で、よくもまあ、こういう大胆な提言を出すことが出来たものだなあと感心します。まだ提言の段階ですので、今後実際に政策にどのように反映されていくのかということは全く分かりませんが、公的な助成を受けた研究会がこうした積極的な報告を行ったことに心から敬意を表したいと思います。

年越し派遣村の村長だった湯浅誠さんが、ある本(「正社員が没落する-『貧困スパイラル』をとめろ!」角川ONEテーマ21新書)の中で、次のようなことを書いていました。

一昨年、厚生労働省のヒアリングを受けた際に、職業安定局の室長がこう漏らした。

「このまま行ったら日本はどうなっちゃうんだろうなあ」

労働や生活、福祉を主導しているはずの官僚の口からこうした言葉がこぼれたのには驚いたが、もはや彼らにも主体的に国の政策を動かしている感覚はなく、内閣の決めた削減案をこなさなければいけないというプレッシャーばかりが重くのしかかっているという。

厚生労働省の役人もなかなか大変です。でも、厚生労働省の中にもきっと、「今のような福祉切り捨ての政策は間違っている!」と考え、自分のできる範囲で何とかがんばっていらっしゃる方がいるのだろうと思います。黙っていたのでは、世の中は変わりません。思想信条や立場の違いを超えて、みんなが声を出し合い、手をつなぎ合っていくということが本当に大切になっていると思います。

上記報告書などは、以下のページで見ることが出来ます。

機能面に着目した保育所の環境・空間に係る研究事業総合報告書(508ページ)
報告書概要版(9ページ)
第23回社会保障審議会少子化対策特別部会資料