「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」を読んで2011年01月04日 18時08分13秒

 

昨年、最も売れた本をご存じでしょうか。「オリコン」「トーハン」「日販」などの年間ベストセラーで、軒並み1位を獲得したのが、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」という、大変長いタイトルの本です。タイトルがあまりに長いので、よく「もしドラ」と略されています。

私も、学校の図書館で借りて読んでみましたが、とてもおもしろいと同時にいろいろと考えさせられる本でした。

主人公は、ある理由から高校野球部のマネージャーをやることになり、その野球部を甲子園に出場させると決意した女子マネージャーです。彼女は、マネージャーの仕事を理解しようと、書店に行き、店員に勧められるままにドラッカーの「【エッセンシャル版】マネジメント~基本と原則~」を買います。読んでみるとこの本は起業家や経営者のための本であり、「マネージャー」という言葉を勘違いしていたと分かりますが、読み進めていくうちに、その内容に惹かれていきます。彼女は、この本で学んだことを生かし、野球部の改革に取り組みます。彼女が、改革の参考にした言葉は次のようなものでした。

「あらゆる組織において、共通のものの見方、理解、方向付け、努力を実現するためには『我々の事業は何か。』『何であるべきか』を定義することが不可欠である。」

「企業の目的と使命を定義するとき、出発点は一つしかない。顧客である。顧客によって事業は定義される。(中略)顧客を満足させることこそ、企業の使命であり目的である。」

「真のマーケティングは、顧客からスタートする。すなわち、現実、欲求、価値からスタートする。『われわれは何を売りたいか』ではなく、『顧客は何を買いたいか』を問う。『われわれの製品やサービスにできることはこれである』ではなく、『顧客が価値ありとし、必要とし、求めている満足はこれである』と言う。」

「仕事と労働(働くこと)とは根本的に違う。(中略)働く者が満足しても、仕事が生産的に行われなければ失敗である。逆に仕事が生産的に行われても、人が生き生きと働けなければ失敗である。(中略)働きがいを与えるためには、仕事そのものに責任を持たせなければならない。そのためには、①生産的な仕事、②フィードバック情報、③継続学習が不可欠である。」

高校の部活動とは、全く関係ないような言葉が並んでいますが、彼女は自分の現実に当てはめ、実践していきます。詳しくは、実際に本を読んで頂ければと思います。ドラッカーの理論を大変わかりやすく解説しながら、とても楽しく、ほろっとさせてくれる小説です。(ちなみに、この小説の主人公のモデルは、AKB48の峯岸みなみさんです。)

ドラッカーというと、主に企業経営について論じている経営学者のように思われがちですが、彼が晩年に関心を持っていたのは実は「非営利組織の経営」であるといいます。彼が最後に行った講義も、別の教授が教える「21世紀型NPOのリーダー」という講義に特別ゲストとして招かれたときでした。この講演の中で、彼は、営利組織である企業と非営利の組織との共通点と相違点に触れ、非営利組織を成功に導くために大切なことなどについて論じています。次のような指摘は、とてもおもしろいと思いました。

「企業経営の場合、『成果とは何か』に答えるのは比較的簡単です。利益を出さなければならないからです。(中略)対照的に、NPOに『成果とは何か』という問いを投げかけてもすぐに答えは返ってきません。何度も自問自答しなければ、成果は何なのか、わからないのです。(中略)ここでカギを握るのは『顧客とは誰か』です。(中略)企業経営の原点は顧客にあります。顧客を集めれば集めるほど、よりよい成果を出せる-こんな前提があるためです。しかし病院は違います。『顧客とは誰か』により『成果とは何か』も変わります。『医師を顧客とする病院』と『患者を顧客とする病院』では、経営のやり方が違ってくるのです。複合的な目的を持つ大学などであれば、なおさらです。」

「週刊ダイヤモンド」2010年11月6日号より

私も「もしドラ」を読んだ後、ドラッカーの「マネジメント」を読んでみましたが、NPO運営という観点からも、大変に参考になる本だと思いました。「組織」と、それを成り立たせている「人間」について、非常によく考えてある本だなあと感心しました。例えば、今、学童保育も元気っ子クラブも「大規模化」と言う問題に直面していますが、組織の大規模化ということなどに関しても「マネジメント」は次のように触れています。

「企業以外の組織の中には、明らかに規模の限界を超えたものがある。病院は、ベッド数が1000床を超えるとマネジメントが不能になる。(中略)組織には、それ以上大きくなると成果をあげる能力が低下するという最適規模がある。巨大企業の中には、すでにその最適規模を超えているものがある。(中略)そのような企業は自らを分割すべきである。(中略)規模の不適切さは、トップマネジメントの直面する問題のうち最も困難である。自然に解決される問題ではない。勇気、真摯さ、熟慮、行動を必要とする。」

「組織には、もはやマネジメントできなくなるという複雑さの限界がある。トップマネジメントが事業とその現実の姿、そこに働く人、経営環境、顧客、技術を自らの目で見、知り、理解することができなくなり、報告、数字、データなど抽象的なものに依存するようになったとき、組織は複雑になりすぎ、マネジメントできなくなったと考えてよい。」

ドラッカーは、それぞれの組織が、その使命を果たすためには最適な規模があるのだということを的確に見抜いていました。

元気っ子クラブが、市内の学童保育の統一運営を開始したのは、2004年のことです。今年の4月で、8年目を迎えます。それまで、各父母会が運営していた12の学童と新設2学童、合計14の学童を統一運営していくために、毎日毎日、夜遅くまで話し合いを行っていたことが昨日のように思い出されます。どういう組織を作っていくのか、その組織を運営するためにどのような規定を作っていったらいいのかなどを真剣に論議し合いました。

この7年間、保護者や指導員などみんなで協力し合いながら、学童保育の運営を行ってきました。しかし、この間、草加の学童保育とそれを取り巻く状況は大きく変わってきています。

元気っ子クラブによる統一運営を開始したことで、指導員の雇用に関わる各父母会の負担が減り、指導員の雇用が安定したこと、バザーや事業活動に頼らずに運営ができるようになったこと、「2クラス制」など新たな取り組みを統一して取り組むことができるようになったことなど、さまざまな成果がありました。

こうした成果を踏まえながら、今後さらに草加の学童保育を発展させていくために、原点に帰りもう一度2004年の統一運営開始時のように、元気っ子クラブの組織やあり方について、みんなで真剣に論議していくことが必要な時期に来ているのではないかと思います。

ドラッカーの言葉を借りれば、「我々の事業は何か。」「何であるべきか」を、まずは、もう一度改めてみんなで確認していくことが必要なのではないかと思います。私たちにとっての「顧客」とは、当然、子どもたち、保護者、指導員を含むでしょうが、さらに、子どもに関わる地域の人たち全てを含むものとも考えられます。私たちの理念の実現に向け、その「顧客」のために、私たちは、何をどうすべきなのか、そしてそれを実現するための組織はどうあるべきなのか、こうしたことを真剣に論議し、確認していくことが必要なのではないかと思います。

5年後、10年後、さらに草加の学童を発展させていくことができるような礎(いしずえ)をいま、みんなで知恵を出し合い、力を合わせて作っていくことができればと思います。

今年もよろしくお願いいたします。

この文は、1月16日発行予定の「元気っ子ニュース」向けの文書のうち一部を割愛したものです。

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