「子ども・子育て新システム」と「地域主権改革」~知らない間に大変なことが・・・。2010年09月20日 15時38分42秒

9月11日、12日に行われた、県連協合宿研究会。初日の全体会は、「新しい保育制度改革、地域主権改革等を巡る国の動き」についての学習会でした。

国は、本年1月、「子育て・子どもビジョン~子どもの笑顔があふれる社会のために~」を閣議決定しました。また、少子化対策会議は、「子ども・子育て新システム検討会議」を開催し、本年6月に、「子ども・子育て新システムの基本制度案要綱」(以下「新システム」)を発表しました。

この「新システム」は、現在の保育園、幼稚園、学童保育などの制度を、抜本的に変えるものです。来年の通常国会に法案を提出し、2013年度の施行を目指すとしており、国は、着々と準備を進めています。しかし、その内容については、あまり一般には知られていないのではないかと思います。

合宿件の講師の渡辺繁博さん(埼玉自治体問題研究所事務局長)は、次のような問題があると指摘していました。

①自治体の公的責任をあいまいにし、保育に市場原理を持ち込む直接契約制を導入。

②成り立ちも機能も違う幼稚園と保育園を、十分な検討もなく一体化。

③地域主権改革の名の下に、国としての守るべき最低基準、ナショナルミニマムを廃止。

④子どもの権利保障の視点より、経済成長戦略の一環としての保育制度改革。

お金の流れなども含めて、制度全体を大きく変えようとしていますので、何が問題なのか見えづらくなっていますが、本質的な問題は、この4点に尽きるのではないかと思います。

保育に欠ける子どもたちへの対応は、市場原理に基づいて利用者一人ひとりが事業者と直接契約をするということになります。事業者を認定し利用者に給付を行うのは自治体ですが、個々の子どもがサービスを受けられるようにするのは、自治体の責任ではなく、各利用者の自己責任とされてしまいます。国としての最低基準があいまいにされますので、財政難を抱えた自治体などでは、どんどん基準が下げられ、保育の質が低下してしまう危険性があります。(「新システム」については、全国保育団体連絡会の「署名用チラシ」がわかりやすいと思います。)

「地域主権改革」がどいういうものかこれまでよく分かりませんでしたが、講演を聞いて、なかなか恐ろしい内容だと思いました。そこに住む住民が、自分たちの住むまちのことを決めていくという意味では、「地方分権」ということは当然のことでしょう。しかし、いま国が言っている「地方分権」や「地域主権改革」は、これとは全く違います。

一例だけをあげます。

「地方分権改革推進委員会第3次勧告」(2009年10月)では、「自治体の自由度」を増すという観点から、国が定めている基準の見直しを勧告しています。これまで国が定めてきた基準を、「廃止」するか「条例へ委任」の措置を講じるとしています。そして、「条例へ委任」する場合には、①「従うべき基準」(地方自治体は、国の基準に従う。)、②「標準」(「合理的な理由」があれば、地方自治体独自の基準を設けることができる。)、③「参酌すべき基準」(基本的には、地方自治体の判断で決められる。)の3つに分け、①「従うべき基準」と②「標準」は、「真に必要な場合に限定」するとしています。

この勧告では、ありとあらゆる分野について「廃止」または「条例へ委任」の措置を講じるようにしています。この勧告に基づいて、各省庁が対応を迫られました。厚生労働省も、この第3次勧告に対して、「対応方針」を発表しています。この「対応方針」を見ると、勧告では、「人員配置基準」については「標準」、「居室面積基準」と「人権に直結する運営基準等」については、「参酌」と判断していましたが、さすがに厚生労働省も、これらについては「従うべき」と回答しています。「保育・介護・福祉の質等に深刻な悪影響が生じかねない」と判断したものと思われます。しかし、その一方で、これら以外の「施設・設備・運営基準」については、勧告通り、「参酌」と判断し、結果として、「全基準の約9割が地方自治体の判断で決められることに」なりました。

現場の声に基づいて保育や福祉の論理で検討が加えられたのではなく、国全体の「制度改革」という観点から、一律に基準の撤廃を強いられたとしか思えません。曲がりなりにも国の基準があるからこそ、保育園の質は一定の水準を保つことが出来たわけです。学童保育にはその基準がありません。そのため、施策の前進を図るためには、各地域において行政や議会に積極的に働きかけ、自分たち自身の力で勝ち取るしかありませんでした。福祉の分野全体の基準があいまいにされてしまったとき、その基準すらなかった学童保育は、いったいどうなってしまうのか。不安に感じざるをえません。

「子ども・子育て新システム」や「地域主権改革」などについては、これらが実行に移されたときに、具体的に現場がどのようになってしまうのか、マスコミなどでもあまり報道されていないように思います。国民に知らさないまま、国はその実行に向けて着々と準備を進めています。これからしっかりと学習を進め、声を上げていく必要があります。

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